沈黙の臓器「肝臓」を守るための基礎知識とアルコールとの上手な付き合い方

私たちの健康を日々支えている重要な臓器の一つが「肝臓」です。
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれるほど、自覚症状が現れにくい特徴があります。
しかし、現代の生活習慣、特に食事や飲酒の影響を受けやすく、知らないうちに肝臓に負担をかけている人も少なくありません。
この記事では、肝臓の基本的な役割から、アルコールとの関係、そして肝臓を守るための習慣など、詳しく解説していきます。
是非最後までご覧ください。

肝臓の重要性
肝臓は私たちの身体の右半身、胸の下部、肋骨の内側に位置する人体で最も大きな内臓器官です。成人ではその重さは一般的に1.0kg~1.6kg程度とされ、外見は赤褐色を帯びています。この肝臓という臓器は「人体の化学工場」とも呼ばれ、その理由は常に約500種類以上の異なった機能を同時並行的にこなしているからです。
肝臓が元気に機能することは、他のすべての臓器や器官にとって非常に重要な要素となります。なぜなら、肝臓が効率的に働いているおかげで、全身の代謝が正常に保たれ、有害物質の蓄積を防ぎ、各細胞に必要なエネルギーや栄養素が適切に供給されるからです。
しかしながら、肝臓には「沈黙の臓器」という別名があります。その理由は、肝臓はよほど深刻な状態に至るまで、痛みや違和感などの自覚症状がほとんど現れないためです。つまり、多くの人が症状に気づいた時には、既に肝機能の異常が進んでしまっている場合が多いのです。
その一方で、健康診断や人間ドックにおいて、異常や測定値が基準値外として最も頻繁に指摘される臓器もまた肝臓なのです。特に肝機能に関する数値(ASTやALT、γ-GTPなど)は他の検査項目に比べて比較的早期から異常が現れやすく、多くの人が健康診断でその異常を初めて知ることになります。
また、「肝臓のトラブルは中高年になってから」というイメージが広く一般的ですが、実際には男性の場合、30代からすでに肝機能に注意を払う必要があると言われています。これは、30代以降になると基礎代謝が徐々に低下し、運動不足や食生活の乱れから肥満が進行しやすい時期にあたるためです。実際に、体重が増加し始める年齢と肝機能が低下し始める年齢はほぼ同時期であることが多いとされています。
統計的には、健康診断を受けた35歳以上の男性の約3割以上に、何らかの肝機能障害が発見されると言われています。そしてその大部分が、過剰な脂肪が肝臓に蓄積する脂肪肝によるものであることが分かっています。脂肪肝は飲酒習慣がある人だけでなく、お酒を飲まない人でも肥満や生活習慣病が原因で起こり得るため、日々の運動習慣やバランスの取れた食事、適切な体重管理が極めて重要となります。
したがって、肝臓を守るためには早期の予防と定期的な健康診断によるチェックが不可欠であり、自覚症状がない段階から適切な生活習慣を心掛けることが、長期的な健康維持にとって非常に重要なのです。
肝臓の役割
⒈栄養の代謝
「代謝が良い」と聞くと、汗をかきやすい、体温が高い、痩せやすいなどの印象を抱く人も多いかもしれませんが、実際には体内での栄養素の取り扱い全般を指します。つまり、私たちが摂取した食物から得られる栄養素を分解・吸収し、それらを合成して必要な部位へ送り届け、身体が正常に働けるよう活用することが「代謝」の本質です。
この代謝の中心的な役割を担っているのが肝臓です。私たちが食べたものは、胃や小腸を経て吸収された後、肝臓に集められ、体内で使いやすいかたちに作り替えられます。
食事から摂取する三大栄養素である糖質、脂質、タンパク質は、すべて肝臓で代謝され、それぞれ特定の役割を果たします。
糖質は小腸でブドウ糖に分解された後、肝臓で一部がすぐにエネルギーとして使われ、残りはグリコーゲンという貯蔵形態に変換されます。グリコーゲンは筋肉などの活動に必要なときに再びブドウ糖に戻されて供給され、エネルギー源として利用されます。
タンパク質は小腸でアミノ酸に分解され、肝臓で身体に必要な各種タンパク質に再合成されます。これらは筋肉、臓器、酵素、ホルモン、免疫成分などの構成材料として使われます。
脂質は小腸で脂肪酸とグリセロールに分解され、肝臓ではそれらを材料にコレステロール、中性脂肪、リン脂質などが合成されます。これらは細胞膜の材料やホルモンの原料、エネルギー貯蔵物質として体内で活用されます。
このように、私たちが食べたものはすべて肝臓を通して身体に必要な形に整えられており、肝臓の代謝機能が正常に働くことは健康な身体を維持するために不可欠です。
⒉有毒物質の解毒
食事を通じて体内に取り込まれるのは、栄養素だけではありません。食品添加物や野菜に残留した農薬、保存料、環境汚染物質など、微量ながら有害な可能性のある物質も含まれています。こうした物質を体内で無毒化し、排出可能な状態に変える働きもまた肝臓の重要な役割です。
肝臓が健康であれば、これらの有害物質を代謝し、水に溶けやすい物質に変換して尿や便として体外に排出できます。しかし、肝臓の機能が低下して解毒能力が衰えると、有害物質が体内に蓄積しやすくなり、それが免疫機能の低下や腸内環境の悪化、慢性的な疲労感など、さまざまな体調不良の原因となることがあります。
代表的な有害物質のひとつにアルコールがあります。アルコールは摂取後、肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに分解されます。このアセトアルデヒドは、アルコールよりもさらに毒性が強く、二日酔いや頭痛、吐き気などの原因物質とされています。
アセトアルデヒドはさらにアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって、酢酸、水、二酸化炭素などに分解され、体外に排出されます。しかし、飲酒量が多すぎたり、肝臓の機能が低下していたりすると、アセトアルデヒドの分解が追いつかず、体内に残ってしまいます。これが二日酔いや悪酔いの正体です。
日本人の約40%は、ALDH2という酵素の活性が低い、もしくはまったく働かない体質を持っており、お酒に弱い傾向があります。この体質は遺伝的に決まり、アルコールに対する分解能力が低いため、少量の飲酒でも強い反応が出ることがあります。
したがって、肝臓の解毒機能を守るためには、日常的な生活習慣の見直しが大切であり、特にアルコール摂取については個人差を理解したうえで、無理をしないことが重要です。
⒊胆汁の分泌による脂肪の消化
肝臓のもうひとつの重要な役割が「胆汁の生成と分泌」です。肝臓の肝細胞では、1日に約600〜1000mLの胆汁が作られています。胆汁は消化酵素ではありませんが、特に脂質の消化吸収において重要な働きを担っています。
食事で摂取した脂肪分が胃を経て小腸に届くと、胆のうに蓄えられていた胆汁が十二指腸に分泌されます。胆汁の主成分である胆汁酸は、脂質を細かく乳化する働きがあります。この乳化作用によって、脂質は消化酵素であるリパーゼとよく混ざり、効率的に分解・吸収されるようになります。
また、胆汁には不要な物質を体外へ排出する働きもあります。体内で生成される脂溶性の老廃物やコレステロールなど、水に溶けにくく尿として排出できない物質は、肝臓で胆汁に変えられ、腸を経由して便として体外に排出されます。便の色が黄色〜茶色であるのは、胆汁色素であるビリルビンによるものであり、肝機能の低下によって便の色が白っぽくなることがあります。
肝臓の機能が低下し、胆汁の分泌が滞ると、脂質の消化吸収がうまくいかず、食欲不振や胃もたれ、下痢などの症状が現れることがあります。これは特に運動時のエネルギー供給にも影響を及ぼすため、肝臓の健康はアスリートや日常的に運動を行う人にとっても非常に重要なテーマとなります。
アルコールの過剰摂取によって肝細胞がダメージを受けると、胆汁の分泌機能も影響を受けやすくなります。肝臓を労わることは、日々の食事や運動の効果を高めることにもつながるのです。
肝臓とアルコールの関係性
肝臓とアルコールの関係性は非常に密接です。お酒を多量・長期的に飲み続けることによって、肝臓には大きな負担がかかり、さまざまな肝障害を引き起こす原因となります。これらの肝障害は総称して「アルコール性肝障害」と呼ばれ、主なものとして「アルコール性脂肪肝」「アルコール性肝線維症」「アルコール性肝炎」「アルコール性肝硬変」が挙げられます。
アルコール性脂肪肝は、過剰なアルコール摂取によって肝臓に中性脂肪が蓄積された状態です。脂肪が過剰に溜まることで肝細胞が正常に機能できなくなり、初期段階では無症状であっても、放置すれば次第に肝機能が悪化し、より深刻な疾患へと進行するリスクがあります。
アルコール性肝線維症は、長期にわたる飲酒により肝臓内にアセトアルデヒドや中性脂肪が蓄積され、それらの影響で肝細胞の周囲が線維化する病態です。線維化とは、肝臓内の組織が硬くなり弾力性を失っていく変化であり、これは肝硬変の前段階とも言えます。
アルコール性肝炎は、日常的に飲酒している人がある時期に過度の飲酒を行ったことで、急激に肝細胞が破壊されて発症する急性の炎症性疾患です。症状としては、発熱、黄疸、腹痛、倦怠感などが見られます。また、肝炎ウイルス(B型・C型など)に感染している人が飲酒を続けることで、ウイルス性肝炎とアルコール性肝炎が複合的に発症し、症状が重症化するケースも少なくありません。
アルコール性肝硬変は、長期間にわたって肝細胞が破壊と再生を繰り返すことで、肝臓全体が線維組織に置き換わり、柔軟性を失って硬くなってしまう状態です。肝臓は本来やわらかく、再生能力の高い臓器ですが、この再生と破壊のサイクルが繰り返されることで正常な構造が失われ、やがて全体が硬化し、肝臓本来の機能が著しく低下します。肝硬変に進行すると、肝臓での代謝・解毒・胆汁分泌などの重要な機能が正常に行えなくなり、命に関わる合併症(肝不全、肝がん、腹水、食道静脈瘤など)を引き起こす危険性があります。
肝臓には神経がほとんど通っていないため、多少のダメージを受けていても自覚症状が現れにくいという特性があります。そのため、病気がある程度進行して初めて「なんとなく体がだるい」「食欲がない」「むくみがある」といった曖昧な体調不良を感じることが多く、気づかないうちに重篤化しているケースも少なくありません。
さらに肝臓には優れた再生能力があります。たとえば、外科的に一部を切除した場合でも、残った肝細胞が分裂・増殖し、時間をかけて元の大きさに近い状態にまで回復することが可能です。この再生能力があるからこそ、肝臓は非常にタフな臓器といえますが、それでも限度はあります。過剰なアルコール摂取、運動不足、栄養バランスの偏り、過労といった生活習慣が続けば、いずれ再生能力を超えて機能低下が進行し、元には戻らない状態に至ることもあるのです。
したがって、アルコールとの付き合い方は非常に重要であり、日常的に飲酒をする方は自身の体質や肝臓の状態を考慮したうえで、適量を守ることが肝臓を守るために欠かせません。
休肝日は必要?不要?
「休肝日」という言葉を耳にすることがあります。これは読んで字のごとく、肝臓を休ませるためにお酒を飲まない日を意識的につくるという考え方で、一般的には肝臓の健康を保つための有効な手段の一つとされています。
しかし、近年では「週単位でのアルコール摂取量のコントロール」という視点から、必ずしも休肝日が絶対的に必要とは限らないという考え方も登場しています。つまり、1日単位で飲酒を管理するのではなく、1週間というやや長いスパンで総量を調整することで、肝臓への負担を抑えるという方法です。
厚生労働省が示している「節度ある適度な飲酒」の基準によれば、1日の純アルコール摂取量は20gが望ましく、許容の上限としては40g程度が目安とされています。この基準に基づけば、1週間あたりの許容量は140g~280gとなり、週全体でこの範囲におさまるように飲酒量を調整することで、肝臓への過度な負担を避けることができると考えられています。
例えば、週末に飲み会の予定がある場合、平日にはアルコール摂取を控える、またはゼロにすることで全体のバランスを取ることができます。このような柔軟な飲酒管理は、現代の多様なライフスタイルに合った方法ともいえます。
ただし、この考え方には注意点もあります。休肝日があるからといって、他の日に過剰な飲酒をしてしまえば、結果的に肝臓にとっては大きな負担となりかねません。特に一度に大量のアルコールを摂取する「ドカ飲み」や「一気飲み」は、肝細胞に急激なダメージを与える可能性があるため、週の合計量だけでなく、1日の摂取量や飲酒の質(量・頻度・スピード)にも注意が必要です。
また、休肝日の目的は単に「飲まない日をつくること」ではなく、「肝臓に回復の時間を与えること」にあります。アルコールの代謝に伴い発生するアセトアルデヒドなどの有害物質を処理し、肝細胞の損傷を修復するには、ある程度の時間が必要です。そのため、週単位で摂取量を調整しながら、しっかりと休肝日を設けることは、肝臓の自己修復能力をサポートするという点でも大切です。
加えて、個人のアルコール代謝能力、年齢、性別、体格、既往歴などによって適切な飲酒量には大きな差があります。特にアルコール分解酵素の働きが弱い体質の方では、少量の飲酒でも肝臓に負担がかかりやすく、休肝日や適量の管理がより重要になります。
結論として、「休肝日を設ける」ことと「週単位での飲酒量の管理」は、どちらも肝臓の健康を守るための有効なアプローチです。大切なのは、形式的に休肝日をつくることではなく、自身の体調や飲酒習慣を見直し、肝臓を労わるバランスの取れた飲酒スタイルを実践することなのです。

まとめ
肝臓は私たちの身体を内部から支え続けてくれている極めて重要な臓器です。
代謝、解毒、消化といった役割はすべて日々の健康を維持するために欠かせないものであり、その働きが少しでも乱れれば、全身にさまざまな不調が現れる可能性があります。
「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓だからこそ、症状が現れる前からのケアが大切です。
定期的な健康診断に加え、バランスの取れた食事、適度な運動、そしてアルコールとの付き合い方が、肝臓の健康を守る鍵となるのです。
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