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「寝だめ」では解決しない!睡眠の真実

現代人にとって、睡眠は「あと回し」にされがちな存在です。

「忙しいから」「時間がないから」と、つい眠る時間を削ってしまう。

けれど本当にそれで大丈夫でしょうか?

私たちの心と身体を支える“睡眠”は、ただの休息ではありません。

この記事では、睡眠が果たす役割と、日本人の深刻な睡眠不足の実態、そして多くの人が誤解している「寝だめ」の真実について、科学的な視点から詳しく掘り下げていきます。

是非最後までご覧ください。

睡眠は「休息」以上の意味を持つ

私たち人間には「睡眠欲」と呼ばれる本能的な欲求があります。これは食欲や性欲と並び、生物として生きていくために欠かすことのできない根源的な衝動の一つです。つまり、「眠る」という行為そのものが、生命を維持するために身体にあらかじめ備わっている、重要な生理的機能であると言えるでしょう。

仮に私たちが100年の人生を送ると仮定した場合、人生の約3分の1、実に30年以上もの時間を睡眠に費やしていることになります。これは「無駄な時間」などでは決してなく、それほどまでに睡眠が人間の健康維持や生命活動の継続にとって本質的な役割を果たしているということを意味しています。

こうした「睡眠」という行動は、人間に限らず、あらゆる哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類、さらには昆虫に至るまで、ほとんどすべての動物に共通して観察される現象です。とくに野生動物においては、睡眠中というのは無防備な状態であるため、捕食者に襲われるリスクが高まるという非常に危険な時間帯でもあります。にもかかわらず、進化の過程において「睡眠を取る」という行為そのものが失われることはありませんでした。これは言い換えれば、睡眠によって得られる恩恵が、外敵に襲われるリスクを上回るほど重要であるということを進化が示しているとも言えます。

では、なぜそれほどまでに「眠ること」が必要なのでしょうか。

現代においても、睡眠の役割については完全には解明されていない部分が多く残されています。しかしながら、近年の脳科学、生理学、心理学の分野では、睡眠が私たちの心身に及ぼす影響について、さまざまな角度から研究が進められています。その中でも特に注目されているのが、以下のようなポイントです。

第一に、脳と記憶の整理・定着です。

睡眠中、私たちの脳ではその日に経験した出来事や学習内容が整理され、長期記憶として保存される過程が進行します。とくにノンレム睡眠と呼ばれる深い眠りの段階では、脳内の神経回路が再編成され、重要な情報が記憶として定着すると言われています。

第二に、身体の修復と免疫機能の回復です。

睡眠中は成長ホルモンが分泌され、筋肉、皮膚、内臓などの損傷した細胞の修復が行われます。また、免疫系の働きも活性化し、病気への抵抗力を高める効果があることが知られています。

第三に、感情の安定とストレスの解消です。

睡眠不足になると、脳の感情を司る部分(扁桃体や前頭前野)のバランスが崩れ、イライラしやすくなったり、不安感が増したりします。十分な睡眠をとることは、精神的な安定にも直結しており、現代社会におけるメンタルヘルスの重要な基盤ともなっています。

一方で、「もっと活動していたいのに、眠くなるのがもったいない」と感じることもあります。特に仕事、趣味、勉強などに熱中していると、睡眠時間を削ってでも時間を確保したいと思うのが現代人の傾向かもしれません。しかしながら、睡眠不足を続けることで集中力や判断力が低下し、結果的にパフォーマンスが下がってしまうことも多くの研究で指摘されています。

このように、睡眠という行為は単なる「休息」ではなく、脳と身体の機能を維持するうえで不可欠な生命活動です。人類の長い進化の過程においても、決して失われなかった「眠る」という行動。それは、睡眠を取らないことで生じる不都合が、あまりにも大きかったからにほかなりません。

今後も研究が進むことで、睡眠のさらなるメカニズムや機能が明らかになることでしょう。しかし、現時点でも十分に理解されているのは、「睡眠こそが私たちの心と身体の健全さを支える、最も基本的で重要な行動の一つである」という事実です。

人間はどこまで眠らずにいられるのか

人間は一体、どれほど長く眠らずに過ごすことができるのでしょうか。これは誰もが一度は考えたことのある問いかもしれません。人間にとって睡眠は本能的かつ不可欠な生理機能であり、断続的に睡眠を奪われることで心身に様々な不調が現れることは、多くの研究で示されています。そんな中、1964年、アメリカ・カリフォルニア州在住の当時17歳の高校生、ランディ・ガードナーという青年が、その疑問に真正面から挑んだ記録があります。彼は学校の自由研究のテーマとして「人間は何時間眠らずにいられるか」を選び、自らを実験台にする形で、意図的に睡眠を絶つ「断眠実験」を実行しました。

当時の世界最長の不眠記録は260時間ほど(約10日と20時間)とされていましたが、ランディはこの記録を塗り替え、最終的に264時間、つまり丸11日間にわたって一切の睡眠を取らずに過ごすことに成功しました。注目すべきは、彼がこの挑戦をするにあたって、カフェインや覚醒剤といった外的な興奮物質を一切使用しなかったという点です。純粋に自分の意志と周囲の協力だけで記録に挑んだのです。なお、この実験にはスタンフォード大学の睡眠研究者であるウィリアム・デメント博士らも観察に関わっており、日ごとのランディの様子は記録されています。

断眠が進むにつれて、彼の心身には様々な変化と症状が現れていきました。2日目にはすでに怒りっぽくなり、吐き気や軽い体調不良を感じ始め、記憶力の低下や集中力の欠如が見られるようになります。3〜4日目にはより顕著に短期記憶の混乱が起き、妄想的な発言や感情の不安定さが目立つようになりました。7日目を迎えるころには、身体の震えや言語障害、そして幻覚までもが現れたと報告されています。断眠がもたらす影響は、単なる「眠気」や「だるさ」といったレベルを超え、脳機能や感情制御を著しく狂わせることが明らかとなりました。

そして、11日間の断眠を終えた後、ランディはようやくベッドに入り、最初の睡眠で約15時間ほど眠りました。その後は約23時間連続で覚醒したのち、再び10時間半ほど眠るという流れで、比較的スムーズに通常の睡眠リズムに戻ったとされています。驚くべきことに、彼にはその後、明確な後遺症は残らなかったと言われています。わずか1週間ほどで心身の状態も安定し、日常生活に支障が出ることはなかったようです。

ただし、現代の睡眠研究者たちは、彼が完全に起き続けていたわけではない可能性にも言及しています。たとえば「マイクロスリープ」と呼ばれる現象。これは本人が自覚しないうちに数秒〜数十秒間だけ意識が途切れるように眠ってしまう短時間の脳のシャットダウン状態。これが実際には頻繁に起こっていた可能性があります。当時は現在のような高精度な脳波測定装置がなく、その瞬間的な“脳の休止”を正確に把握することは困難だったと考えられます。つまり、脳は本能的に危機を察知し、短時間の眠りを断続的に挟むことで、重大な損傷を回避していた可能性があるのです。

この記録的な挑戦は、睡眠がいかに重要かということを浮き彫りにした一方で、「どれだけ眠らずにいられるか」を競う行為の危険性も明らかにしました。現在では、このような断眠記録は心身への深刻な悪影響が懸念されるため、ギネス世界記録の公式認定対象からも外されています。人間は思っている以上に睡眠という営みに依存しており、それを極端に削ることは、肉体的にも精神的にも深刻なダメージを引き起こすリスクを伴います。

人間の身体は、どこまでも起き続けるようには設計されていない。ランディ・ガードナーの挑戦は、その事実を実証する象徴的な出来事であり、私たちに「眠ることの意味と大切さ」を深く問いかけてくるのです。

睡眠と覚醒を司る鍵「オレキシン」

私たちの脳内には、数多くの神経伝達物質が存在しています。その中でも近年、特に注目を集めている物質の一つに「オレキシン」という神経ペプチドがあります。オレキシンはもともと、食欲やエネルギー代謝に関わる物質として発見されました。しかし、研究が進むにつれて、その本来の役割がより広範囲であることが明らかになってきました。現在では、オレキシンは「覚醒と睡眠の調節に深く関与する物質」であることが分かっており、睡眠医学の分野でも非常に重要なキーワードとなっています。

オレキシンは、脳の視床下部にある特定の神経細胞で産生され、覚醒状態を維持する作用を持っています。この物質が活発に分泌されていると、脳は覚醒状態を安定して保ち、注意力や判断力が高まった状態が維持されます。逆に、オレキシンの分泌が減少すると、脳の覚醒中枢が静まり、自然と眠気が強くなっていくという仕組みになっています。

また、オレキシンは食欲やエネルギー代謝との関連も深く、特に「糖(グルコース)」の利用と密接に関係していることが分かっています。オレキシンには体内の糖を効率的に利用させる作用があり、エネルギーを活発に使う日中や活動中に多く分泌されます。つまり、オレキシンがよく働いているときには、摂取した糖質が脳や筋肉に運ばれ、エネルギーとしてしっかり使われやすくなるのです。

しかし、私たちが眠りに入ると、オレキシンの分泌は自然と低下します。それに伴い、糖の利用率も下がっていきます。すると、食事によって摂取した糖質がエネルギーとして消費されずに余り、結果的に脂肪として体内に蓄積されやすくなるというリスクが生じます。これが、「食べてすぐ寝ると太る」という言い伝えの科学的な背景の一つと考えられています。

さらに、眠っている間というのは、活動量が最小限になるため、基礎代謝も日中に比べて低下します。したがって、就寝直前の食事は、エネルギー消費の少ない時間帯に栄養が過剰に取り込まれることになり、脂肪蓄積の原因となるのです。こうした理由から、就寝前4〜5時間には夕食を済ませておくことが望ましいというのが、現在の栄養学・睡眠学における推奨とされています。

興味深いことに、このオレキシンの働きに着目した新しいタイプの睡眠導入剤の開発も進んでいます。これまで広く使用されてきた一般的な睡眠導入剤は、神経全体を鎮静させるような作用を持ち、脳の広範囲に影響を及ぼします。そのため、効果が強い反面、自然な睡眠とは異なる脳波パターンが見られたり、依存性やふらつきなどの副作用が問題視されていました。

それに対して、近年注目されている「オレキシン受容体拮抗薬」と呼ばれる新しいタイプの睡眠薬は、オレキシンという“覚醒物質”の働きだけをピンポイントで抑えることで、より自然な形で眠りに導くことを目指しています。オレキシンが抑えられることで脳の覚醒中枢の活動が穏やかになり、依存性も低く、自然な入眠に近い状態が得られるとされています。このような薬は、睡眠と覚醒のメカニズムを理解することで生まれた、科学の進歩がもたらした成果の一つと言えるでしょう。

睡眠と覚醒、そしてエネルギー代謝は、すべてが密接につながった繊細なバランスの上に成り立っています。オレキシンという小さな分子の働き一つが、私たちの行動・体重・健康・気分にまで影響を与えているのです。今後の研究の進展によって、より質の高い睡眠と、健康的な生活を両立させるための新しい知見や技術が生まれてくることでしょう。

不眠の3つのタイプ

①なかなか寝付けない「入眠障害タイプ」

布団に入ってもなかなか眠れない、目を閉じているのに頭が冴えてしまう。こうした「入眠困難」は不眠症の中でも特に多く見られるタイプです。一般的に30分〜1時間以上寝付けない状態が続く場合、入眠障害とされます。

このタイプの人に共通してみられるのが、「寝なければ」という焦りから、かえって脳が興奮状態に陥ってしまうことです。実際、寝室やベッドに入ること自体が「また眠れなかったらどうしよう」といった不安と直結してしまい、いわば“眠れない場所”というネガティブなイメージが脳に刷り込まれているケースもあります。これがさらに入眠を難しくし、悪循環に陥るのです。

そのような場合には、一度ベッドを離れて別の空間で軽くリラックスできる行動をとることが勧められています。たとえば、結末を知っているような静かな本や漫画を読む、心地よい音楽を小音量で聴く、深呼吸や軽いストレッチを行うなど、“眠ろうとしない時間”を意図的に作ることで緊張を解くことができます。

大切なのは「眠るための行動」ではなく、「リラックスするための行動」を選ぶことです。人によって効果的な方法は異なりますので、自分に合った“リセット習慣”を見つけることが重要です。

②夜中に目が覚めてしまう「中途覚醒タイプ」

途中で目が覚めてしまい、そこから再び寝付くのが難しいというタイプも、不眠の代表的なパターンの一つです。夜中に何度も起きてしまったり、トイレに行ったあと目が冴えてしまったりといった経験は、誰にでもあるかもしれませんが、これが頻繁に続く場合には「中途覚醒」として注意が必要です。

このタイプの方の中には、「お酒を飲むと寝つきがよくなるから」と、いわゆる“寝酒”の習慣を持っている人も多いかもしれません。確かにアルコールは一時的に神経を鎮静させ、眠気を誘発する効果があります。しかしながら、アルコールは代謝される過程で覚醒作用のある物質に変わり、結果として浅い眠りが増え、夜中に目覚めやすくなることが知られています。

また、夕方以降のカフェイン摂取も同様に、体内に覚醒作用を残したまま就寝を迎えることになり、深い眠りが妨げられてしまいます。コーヒーだけでなく、紅茶、緑茶、チョコレートなどにもカフェインは含まれているため、注意が必要です。

このタイプの不眠に対しては、寝酒の習慣を見直すことや、夕方以降のカフェイン摂取を避けることが効果的な対策となり得ます。また、日中の適度な運動や日光を浴びる習慣も、夜間の睡眠の質を高めるために重要です。

③朝早く目が覚めてしまう「早朝覚醒タイプ」

まだ起きる時間には早すぎるのに、明け方に目が覚めてしまい、そこから眠れない。そんな「早朝覚醒」に悩む方も少なくありません。特に高齢者や、うつ傾向のある方に多く見られるとされていますが、近年ではストレスの多い働き盛りの世代にも増えています。

このタイプの場合、まず見直したいのが「睡眠環境」です。寝室に朝の光が早くから入り込んでしまっていないか、あるいは部屋が暑すぎたり寒すぎたりしていないかといった物理的要因が、目覚めを早めてしまっていることがあります。特に夏場や冬場は、室温の変化が睡眠の質に大きく影響するため、カーテンを遮光性の高いものに替える、寝具を季節に応じて調整する、ベッドの配置を工夫するといった対策が有効です。

また、早朝覚醒は生活リズムやメンタルの状態とも関係しています。日中に強いストレスを感じていたり、感情の起伏が大きかったりすると、自律神経のバランスが崩れ、朝方に身体が過敏に反応してしまうことがあります。このような場合には、就寝前のリラックスタイムを設ける、瞑想や深呼吸などの習慣を取り入れることで、過度な緊張を緩和することが期待できます。

日本人の睡眠は足りている?

私たちが日々あたりまえのようにとっている「睡眠」。しかし、その質や量がどれほど私たちの健康や生活にとって重要なものかを、日常的に意識している人はそれほど多くないかもしれません。現代の日本では、働きすぎ、夜型生活、情報過多によるストレス、などが影響し、睡眠時間を削る生活スタイルが広がりつつあります。その結果、慢性的な睡眠不足は個人の問題にとどまらず、社会全体のパフォーマンスや健康を脅かす深刻な課題となっているのです。

このような状況は、国際的なデータにもはっきりと表れています。経済協力開発機構(OECD)が2021年に発表した調査によると、日本人の平均睡眠時間はわずか7時間22分で、加盟33か国中、最下位という結果でした。最も睡眠時間が長かった南アフリカは9時間13分であり、日本との差は約2時間にものぼります。中間の16位だったポーランドは8時間28分、日本のすぐ上の32位には韓国が7時間51分で続いており、日本人の睡眠時間の短さが際立っています。

もちろん、睡眠時間には個人差があり、「7時間でちょうど良い」「6時間で十分」という人もいます。また、生活習慣、文化、労働環境、気候といったさまざまな要因によって平均的な睡眠時間に差が出るのは自然なことです。たとえば日本のように高齢化が進んでいる国では、加齢とともに睡眠時間が短くなる傾向があるため、平均値が下がることも考えられます。ですから、単純に「日本の睡眠時間が短い=悪い」と結論づけることはできませんが、国際的に見てここまで差があるという事実は、私たちが今の生活リズムを見直すきっかけになるかもしれません。

では、具体的にどのようなサインが現れたとき、私たちは「睡眠不足」と判断すべきなのでしょうか。まず一つは、平日と休日の睡眠時間に2時間以上の差がある場合です。平日は仕事や学校で早起きしなければならず、5〜6時間しか眠れないため、休日に8〜9時間まとめて寝てしまうという人は少なくありません。これは「睡眠負債」を休日に返済している状態であり、生活リズムが乱れやすく、結果として睡眠の質も低下してしまいます。理想的なのは、平日・休日を問わず、毎日同じ時間に寝て同じ時間に起きるという規則正しいリズムを保つことです。

また、「どこでもすぐに眠れる」という状態も注意が必要です。一見、眠りにつきやすいという特技のようにも思えますが、これは身体が極度の眠気にさらされている“過眠状態”のサインかもしれません。一般的には、布団に入ってから10〜20分程度で自然に眠りにつくのが正常とされており、それよりも極端に早く眠ってしまう場合、身体が慢性的な睡眠不足に陥っている可能性が高いと考えられます。ただし、夜の就寝時に短時間で眠れるのは健康な人でも見られる現象のため、状況によって判断は分かれます。

さらに、昼食後に強い眠気に襲われることも、重要なサインです。午後の会議中や授業中など、静かでリラックスした環境にいるときに眠気を感じるのは自然なことでもありますが、日常生活に支障をきたすほどの強い眠気が頻繁に起こる場合、それは「行動誘発性睡眠不足症候群」という睡眠障害の可能性もあります。これは本人の生活習慣や選択によって十分な睡眠が確保されていない状態を指し、放置すれば集中力の低下、作業ミス、交通事故、さらにはうつ症状にもつながる危険性があります。

こうした例からも分かるように、睡眠の問題は「時間の長さ」だけでは測れません。大切なのは、「自分にとって適切な睡眠の長さや質を確保できているかどうか」です。たとえ睡眠時間が6〜7時間と短めでも、毎日同じ時間に就寝、起床をし、朝すっきり目覚め、日中に眠気や不調を感じないのであれば、それはその人にとって理想的な睡眠パターンと言えるでしょう。逆に、睡眠時間が8〜9時間でも、日中ずっとぼんやりしていたり、疲労感が抜けないようであれば、それは「量」ではなく「質」に問題がある可能性があります。

OECDの国際調査で日本の睡眠時間が最下位だったという事実は、確かに印象的なデータではありますが、それを悲観するのではなく、自分自身の睡眠スタイルを見直す良いきっかけと捉えることが大切です。睡眠は余った時間にとるものではなく、心身の健康を支える“投資”であるという視点を持つこと。まずは日々の生活の中で、自分の睡眠と真剣に向き合ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。

「寝だめ」はできない

私たちの生活の中で、「寝だめ」という言葉はよく耳にします。「平日は忙しくてあまり寝れないから、週末にまとめて寝ておこう」「来週はハードな予定があるから、今のうちにたっぷり寝ておこう」こうした考え方は、ごく一般的なものかもしれません。しかし、科学的な観点から見ると、「寝だめ」に本当の意味での効果はあるのかという疑問が生じます。実際、睡眠に関する多くの研究者たちは、現時点での見解として「寝だめはできない」という立場をとっています。

私たちが「寝だめ」として行っている行為の多くは、実際には平日に蓄積された睡眠不足、すなわち「睡眠負債」を休日に返済しているにすぎません。たとえば、連日の仕事や学業で夜遅くまで起きていたり、質の悪い睡眠が続いたりした場合、たとえ朝起きられたとしても、日中に強い眠気が襲ってきたたり、集中力が途切れたりすることがあります。これは本来、身体が求めている睡眠時間に満たない日が続いているというサインであり、その不足分こそが「睡眠負債」と呼ばれるものです。

この睡眠負債が積み重なっていくと、私たちの心身にさまざまな影響を及ぼします。集中力や記憶力の低下、情緒の不安定、免疫力の低下、代謝機能の乱れなどが代表的な影響であり、長期的には高血圧、肥満、糖尿病、うつ病などのリスクも高まるとされています。睡眠不足は、単なる「眠気」だけでは済まされない、健康全体に関わる深刻な問題なのです。

それでは、週末に長く眠ることで、この睡眠負債をすべて解消できるのかと言えば、答えは「部分的にしかできない」というのが現実です。短期間の軽い負債であれば、週末の追加睡眠によってある程度の回復は可能とされていますが、数日〜数週間にわたって蓄積された深刻な睡眠不足は、一晩の長時間睡眠で取り戻すことはできません。さらに、週末に過剰に眠りすぎると、かえって体内時計が乱れ、日曜日の夜に眠れず、月曜日の朝に強い倦怠感を感じるという「社会的時差ボケ」を引き起こす要因にもなります。

また、「あらかじめ多めに寝ておくことで、将来の睡眠不足に備える」といった、いわば“睡眠の貯金”のような考え方もありますが、これにも科学的な裏付けはありません。睡眠は必要な分だけその都度とるべきものであり、食事の「食べだめ」ができないのと同じように、「寝だめ」によって先取りしておくこともできないとされています。たとえ1日10時間眠ったとしても、それが翌々日の徹夜に備える効果をもつわけではないのです。

このように、「寝だめ」はあくまで一時的な対処に過ぎず、根本的な解決にはなりません。むしろ重要なのは、毎日一定のリズムで、身体が必要とする量と質の睡眠を確保することにあります。慢性的な睡眠不足を避けるためには、就寝と起床の時間をできるだけ一定に保ち、休日にも平日と大きく異ならない生活リズムを維持することが推奨されます。

なお、睡眠負債のメカニズムについては、感覚的には理解しやすいものの、その生理学的な仕組みについては、まだ明確には解明されていません。脳内で働く睡眠関連物質や神経伝達物質が関与していると考えられていますが、なぜ睡眠不足が「負債」として蓄積されるような形で心身に残るのか、その詳細な理由は現在も研究が続けられています。

まとめ

睡眠は、私たちの生命活動そのものを支える“土台”であり、脳・心・身体のすべてに直結する極めて重要な営みです。

「寝だめ」でなんとかなると思っていたその習慣が、実はさらに睡眠の質を下げ、生活リズムを狂わせていたかもしれません。

今こそ、自分の睡眠を見直し、「足りていない眠り」を取り戻す一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

今日のあなたのパフォーマンスと、未来の健康は、今夜の眠りから始まっています。

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通う頻度についても月2回、月4回、月8回の3つのプランから選択できるので、お気軽にご相談ください。

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