“なんとなく不調”の正体は口呼吸? 鼻呼吸がもたらす本当の健康効果

知らず知らずのうちに「口呼吸」になってはいませんか?
一見、何気ない習慣のように思えるかもしれませんが、実は口呼吸が続くと、姿勢の崩れ、睡眠の質の低下、いびき、歯並びの悪化、首こり・肩こりなど、身体のあちこちに不調が現れる可能性があります。
反対に、「鼻呼吸」に切り替えるだけで、呼吸の質が上がり、酸素と二酸化炭素のバランスが整い、姿勢や睡眠の改善にもつながります。
この記事では、口呼吸と鼻呼吸の違い、そして鼻呼吸がもたらす具体的なメリットについて詳しく解説していきます。
是非最後までご覧ください。

正しい呼吸がもたらす心と身体の変化
私たち人間にとって「呼吸」は、生きていくうえで欠かすことのできない基本的かつ重要な生命活動のひとつです。空気中に含まれる酸素を体内に取り入れ、不要になった二酸化炭素を体外に排出するというこのシンプルな動作は、実は想像以上に精密で複雑な仕組みのうえに成り立っています。
動物の世界を見てみると、生き物によって呼吸の方法はさまざまです。たとえば、魚類は水中に溶け込んだ酸素を「エラ」を使って取り込む「エラ呼吸」を行っています。一方、カエルなどの両生類やヘビ、トカゲといった爬虫類は「肺呼吸」に加えて、皮膚からも酸素を吸収できる「皮膚呼吸」も併用している種類がいます。このように、生物たちはそれぞれの環境に適した方法で呼吸し、生命を維持しているのです。
もちろん、私たち人間も呼吸によって酸素を身体に取り入れ、脳、筋肉、内臓などのあらゆる器官が正常に機能するためのエネルギーを生み出しています。呼吸を止めてしまえば、酸素が供給されなくなり、細胞は活動を停止し、数分で脳機能が損なわれ、最悪の場合は命を落とす危険すらあります。それほどまでに呼吸は、人間の生命維持にとって欠かすことのできないものなのです。
では、私たちは一日にどのくらいの回数、呼吸をしているのでしょうか。一般的に、大人が安静にしている状態では1分間に約12〜20回の呼吸をするといわれています。これを一日に換算すると、約2万回以上もの呼吸を無意識のうちに繰り返していることになります。
しかし、もしこの呼吸の一つひとつが「間違った呼吸法」だったとしたらどうでしょう。1日に2万回、毎日積み重ねていくうちに、その影響は無視できないレベルにまで大きくなっていきます。呼吸が浅くなっていたり、胸だけで呼吸していたり、呼吸筋がうまく使えていない状態が続くと、疲れやすくなったり、集中力が続かなかったり、肩こり、頭痛、猫背といった姿勢の崩れ、さらには血流の悪化など、さまざまな不調を引き起こす原因となります。
現代社会では、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用などによって、無意識のうちに浅く速い呼吸が習慣化してしまっている人が多く見られます。こうした呼吸のクセは、ストレスや緊張とも深く関係しており、自律神経のバランスを崩す要因にもなりかねません。
呼吸は、私たちにとってあまりにも当たり前の存在であるため、意識する機会が少ないかもしれません。しかし、正しい呼吸を身につけることは、健康的な身体をつくるうえでとても大切な第一歩です。日々何気なく繰り返している呼吸に少し目を向けることで、心と身体のコンディションが大きく変わる可能性があるのです。
肺のしくみと呼吸を支える横隔膜の働き
「呼吸」と聞いて、まず思い浮かぶのは、空気が肺に入り、また出ていくという動きではないでしょうか。
肺は、胸腔と呼ばれる胸の中に位置し、肋骨に囲まれた空間に左右一対で存在しています。左右の肺は見た目こそ似ているものの、実は構造に違いがあります。右側の肺は「三葉(さんよう)」と呼ばれる三つの区画に分かれており、上葉・中葉・下葉の3つで構成されています。一方、左側の肺は「二葉(によう)」と呼ばれる二つの区画、すなわち上葉と下葉に分かれており、右肺よりもやや小さくなっています。
この左右の大きさの違いには、明確な理由があります。それは「心臓」の存在です。心臓は胸のやや左寄りに位置しており、左側の肺の一部スペースを占めています。したがって、左の肺は右に比べてややコンパクトに造られているのです。人間の内臓は、決して左右対称にはできておらず、それぞれの臓器が最も効率よく機能するように、適切な配置と大きさでおさまっているというわけです。
さて、呼吸において中心的な役割を担っている肺ですが、実はこの肺自体には「筋肉」が存在しません。つまり、肺そのものが自らの力で膨らんだり縮んだりして空気を吸ったり吐いたりしているわけではないのです。それでは、どのようにして肺の中に空気が出入りしているのでしょうか。
その鍵を握っているのが、「横隔膜」と呼ばれる筋肉です。横隔膜は、胸腔と腹腔を隔てるようにドーム状に張られた大きな筋肉で、呼吸運動の主役と言っても過言ではありません。
肺はあくまでも「空気が出入りする場所」であり、それを動かしているのは横隔膜をはじめとする周囲の筋肉なのです。これらの筋肉が連携してスムーズに動作することによって、私たちは無意識のうちに呼吸を繰り返すことができています。
このように、私たちが普段ほとんど意識せずに行っている呼吸には、実に多くの臓器と筋肉が関与しており、それぞれが正確に働くことで、ようやく「自然な呼吸」が成り立っているのです。
横隔膜は呼吸の主役を担う骨格筋
横隔膜は、その名前に「膜」とついているため、薄い膜のような組織を想像しがちですが、実際にはれっきとした骨格筋の一種であり、呼吸において極めて重要な役割を担う筋肉です。形状としては、中央が高く盛り上がった円蓋(ドーム)型をしており、安静時にはそのドーム部分が胸腔内にせり上がっています。
横隔膜は主に吸気(息を吸う動作)の際に活動し、このときに筋肉として収縮することで、そのドーム状の構造が平坦に押し下げられるように変形します。この動きによって胸腔の容積が増大し、胸腔内の圧力が低下します。空気は、圧力が高い方から低い方へと移動する性質を持つため、外界の空気が鼻や口、気管を通って肺へと自然に流れ込みます。これがいわゆる吸気のプロセスです。
横隔膜がこのように下方へ収縮する動きは、肺そのものを直接広げるのではなく、肺が収まっている胸腔全体の体積を増やすことによって、間接的に肺を引き伸ばし、肺内に空気を取り込むための陰圧環境を作り出しているのです。
吸気が終わると、今度は横隔膜の筋収縮が解かれ、筋肉が弛緩していきます。弛緩した横隔膜は自然と元のドーム状の形に戻り、それに伴い胸腔の容積は減少し、相対的に内圧が上昇します。その結果、肺内の空気は押し出されるように気管を通って体外へと排出されます。これが呼気(息を吐く動作)のプロセスです。
さらにこの呼吸運動には、横隔膜だけでなく、腹壁を構成する腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋といった筋群の働きも密接に関与しています。とくに運動時や強制的な呼気(咳、くしゃみ、声を出すときなど)においては、これら腹部の筋肉が積極的に収縮し、腹腔内圧を高めることで横隔膜を上方に押し戻し、より強く肺から空気を押し出す動きが生じます。
このように、横隔膜の収縮と弛緩、そして腹壁の筋肉群の連動した働きによって、私たちの呼吸という生命維持活動が支えられているのです。呼吸は無意識に行われている生理機能ですが、その裏では筋肉による精緻なメカニズムが常に働いているということを理解しておくことは、運動や健康管理などの分野において非常に重要です。
横隔膜の動きが悪くなるとどのような影響が現れるのか
横隔膜は本来であれば吸気の際に下方へと収縮し、胸腔の容積を広げることで肺に空気を取り込む「吸気運動」を担っています。しかし、この横隔膜の動きが制限され、適切に下へと下降しなくなると、呼吸の質そのものが著しく低下してしまいます。
まず、横隔膜が十分に下に向かって動かなくなると、その分だけ肺が広がる余地がなくなります。つまり、肺に空気を取り込める容量(換気量)が制限され、呼吸が浅くなるのです。特に、横隔膜が腹腔の方向へとしっかり下がることで可能となる「腹式呼吸」は、この動きがあってはじめて成り立ちます。したがって、横隔膜が下方へと動けなくなると、腹式呼吸が困難になり、代償的に「胸式呼吸」が主体となってしまいます。
胸式呼吸では、主に肋間筋や肩・首周囲の筋肉を使って肋骨を持ち上げ、胸郭を広げることによって空気を取り込みます。この方法は一時的には有効ですが、呼吸効率が悪く、筋肉への負担も大きくなります。また、横隔膜の大きな可動域を使って自然に空気を出し入れしていた状態とは異なり、胸式呼吸ではより浅く、早い呼吸になりがちです。これにより、慢性的な過呼吸傾向や換気過多にもつながる可能性があります。
横隔膜の上下の動きを評価する際には、「ZOA(Zone of Apposition/接合帯)」という概念が重要になります。ZOAとは、息を吸ったときに横隔膜が平坦になり、吐いたときに再び頂点(ドーム状)まで戻るまでの、横隔膜が動く縦方向の可動域を表した指標です。この動きの幅が大きいほど、呼吸機能は正常に近く、肺に空気をしっかりと送り込むことができます。
興味深いことに、このZOAの動きの幅は、単に横隔膜の柔軟性や筋力だけでなく、胸郭や肋骨の構造にも大きく影響されます。具体的には、肋骨が比較的閉じた(下位肋骨が内側に向いている)状態では、横隔膜の収縮に伴って下方への動きが生まれやすく、ZOAも広くなります。一方で、肋骨が外側に開いているような「開肋」状態では、横隔膜のドーム構造が十分に形成されず、上下動の幅が狭くなり、結果として呼吸の効率が落ちてしまうのです。
さらに、横隔膜の動きが制限されると、その役割を補おうとして他の筋肉、特に首や肩の周辺にある補助呼吸筋(斜角筋、胸鎖乳突筋、僧帽筋など)が過剰に働くようになります。これらの筋群は本来、深呼吸や運動時の強制呼吸において一時的に使われるものですが、横隔膜の機能低下が慢性的に続くと、常にこれらの筋肉が働かざるを得ない状態になります。
このような代償運動が続けば、首や肩の筋肉が常に緊張した状態になり、肩こりや首のこわばり、時には頭痛や自律神経の乱れにもつながる可能性があります。一般的に、こうした症状は姿勢不良や肩甲骨の可動性の低下が原因とされがちですが、実はその根本に横隔膜の動きの悪さ=呼吸機能の低下が関係しているケースも少なくありません。
したがって、肩こりや慢性的な首の張りに悩まされている人は、姿勢や筋力バランスの見直しに加えて、呼吸の質=横隔膜の可動性にも目を向けてみることが重要です。呼吸は生命活動の根幹であり、横隔膜の動きはその土台とも言える存在です。見落とされがちなこの筋肉の働きに注目し、適切な機能を取り戻すことが、より健康的な身体づくりの第一歩になるのです。
酸素だけでは不十分?呼吸における二酸化炭素の意外な重要性
呼吸は何のために行っているのかと問われれば、多くの人が
「生命維持のため」「酸素を取り込むため」「二酸化炭素を排出するため」
といった答えを思い浮かべることでしょう。
中でも「酸素を取り込むこと」が特に重要視される傾向があり、
「深呼吸をしてたくさん酸素を吸いましょう」といった言葉が、
健康的で気持ちの良いものとして受け入れられやすいのもそのためです。
確かに、酸素は人間の身体にとって必要不可欠な存在であり、
私たちが生きるためには絶えず体内に取り込む必要があります。
しかしながら、その一方で「酸素を取り込み過ぎている状態」が
起こりうるということにまで思いを巡らせる人はあまり多くありません。
現代人の多くは、無意識のうちに呼吸が浅く、しかも速いというパターンに陥っており、
そうした呼吸が習慣化してしまうことで、身体はそのパターンを正常なものとして記憶してしまいます。
呼吸の回数が多くなればなるほど、当然ながら体内に取り込まれる空気の総量は増えていきますが、
それに伴って二酸化炭素の排出量も増え、必要以上に体外へと放出されてしまいます。
私たちはつい「酸素を多く取り込むことが健康に良い」と信じがちですが、
実はその裏で失われている“ある重要な成分”の存在を見逃してはなりません。
その成分こそが「二酸化炭素」なのです。
二酸化炭素は自然環境の文脈では温室効果ガスの一つとして
しばしば悪者扱いされますが、私たちの体内では極めて重要な働きをしており、
単なる“老廃物”では決してありません。
呼吸によって取り込まれた酸素は肺から血流に乗って身体のすみずみまで運ばれていきますが、
その輸送を担っているのが赤血球内の「ヘモグロビン」と呼ばれるタンパク質です。
酸素はヘモグロビンと結合することで運搬されますが、
実はこの結合したままの状態では細胞が酸素を利用することはできません。
酸素が細胞で活用されるためには、ヘモグロビンから切り離されて初めて可能となるのです。
そして、この「酸素をヘモグロビンから切り離す」という重要な役割を担っているのが、
まさに二酸化炭素なのです。
これは「ボーア効果」と呼ばれる生理現象で、二酸化炭素の存在があるからこそ、
酸素は必要な場所に届けられ、そこで代謝に利用されるという仕組みになっています。
言い換えれば、いくら酸素をたくさん吸っても、体内の二酸化炭素の濃度が低すぎれば、
その酸素は細胞で十分に使われることなく、単にあるだけの状態になってしまうのです。
このように、酸素と二酸化炭素は単なる“吸って吐く”対象ではなく、
それぞれが密接に連携し合って身体の代謝を支えており、
どちらか一方だけが多すぎたり少なすぎたりしても生理的なバランスは崩れてしまいます。
したがって、「たくさん酸素を吸うこと=健康に良い」という一面的な認識は見直すべきであり、
酸素と二酸化炭素のバランスこそが、私たちの身体にとって本当に大切なものであるということを改めて認識する必要があるのです。
「口呼吸」から「鼻呼吸」へ
私たちは日常的に無意識のうちに呼吸をしていますが、その呼吸の「質」や「方法」が身体に大きな影響を与えていることに気づいている人は多くありません。とくに現代人に増えているのが「口呼吸」です。数年間にわたるマスク生活の影響や、姿勢の崩れ、運動不足、ストレスといった要因によって、いつの間にか口を開けたまま呼吸する習慣が身についてしまっている人は少なくありません。
口呼吸が癖になっていると、呼吸が浅く、速くなりやすく、結果として呼吸回数が多くなってしまいます。呼吸が増えることで酸素を効率的に取り込んでいるように思えますが、実はその逆で、体内では必要以上に二酸化炭素が排出され、細胞に酸素を届ける力が低下してしまうのです。これにより、脳や筋肉への酸素供給量が落ち、集中力の低下、仕事や運動のパフォーマンス低下などが起こりやすくなります。また、このような呼吸パターンは脳に記憶されやすく、習慣化してしまうことで慢性的な呼吸の乱れへとつながっていきます。
口呼吸の影響はそれだけではありません。まず、姿勢に悪影響を与えます。口が開くと下あごが後退し、気道が狭くなります。これにより呼吸を確保しようとして頭が前方に出てしまい、首や背中が丸まる、いわゆる猫背のような姿勢になりやすくなります。また、睡眠中に口が開いていると舌が喉の奥へと落ち込みやすくなり、気道を塞いでいびきや無呼吸の原因となります。さらに、口呼吸は舌の位置にも影響を与えます。本来、舌は上あごに触れて口腔アーチを支えていますが、口が開いた状態では舌が下がり、支えを失った歯列が不安定になって歯並びや噛み合わせの乱れを引き起こすこともあります。
こうした様々な問題を予防・改善するために意識したいのが「鼻呼吸」です。鼻呼吸は本来の自然な呼吸のスタイルであり、多くのメリットを持っています。まず、姿勢の安定につながります。鼻呼吸では舌が自然と上あごに収まり、口が閉じられることであごの位置も前方で安定します。その結果、頭が前に突き出ることがなくなり、首や背中の余分な負担を減らすことができます。
また、鼻は口に比べて空気の通り道が狭く、わずかな抵抗があります。この抵抗があることで呼吸が自然とゆっくりになり、必要以上の空気を取り込むことを防いでくれます。つまり、呼吸量が適正に保たれ、血中の酸素と二酸化炭素のバランスが整いやすくなるのです。さらに、鼻腔内には粘膜や繊毛があり、空気中のほこりやウイルス、花粉などをフィルターのように捉え、体内への侵入を防ぐ免疫的な役割も担っています。これにより、風邪やアレルギーの予防にもつながるのです。
日常的に強度の高い運動をしているときなどは、口呼吸になるのは自然な反応ですが、日常生活の多くの時間を口呼吸で過ごしていると、前述のようなさまざまな問題が蓄積されていきます。だからこそ、普段から自分の呼吸を意識し、口が開いていないか、舌の位置が正しいか、呼吸が浅くなっていないかをチェックすることが大切です。
呼吸は1日に2万回以上も繰り返される動作でありながら、私たちはその大切さに気づかずに生活しています。たった一つ、鼻で呼吸するという意識を持つだけで、姿勢が整い、睡眠の質が上がり、集中力が高まり、そして日常のパフォーマンス全体が変わってくるのです。呼吸は、最も手軽で最も効果的なセルフケアであると言っても過言ではありません。

まとめ
私たちは1日に2万回以上も呼吸を繰り返しています。
その呼吸が「口」か「鼻」かによって、身体に与える影響は大きく変わります。
もし日常的に口呼吸が習慣化しているなら、今日から鼻呼吸を意識するだけで、身体が少しずつ整っていくのを実感できるはずです。
正しい呼吸は、意識すればすぐに始められる最も手軽で効果的なセルフケア。
鼻呼吸を習慣にし、健康の土台をつくっていきましょう。
TRANSCENDでは、一人ひとりの状況に合わせて適したメニューを組んでいます。
通う頻度についても月2回、月4回、月8回の3つのプランから選択できるので、お気軽にご相談ください。









