一生使う「骨」を守るために知っておきたいこと

私たちの身体を支え、守り、そして動かすうえで欠かせない「骨」。
普段あまり意識することはないかもしれませんが、実は骨は非常にダイナミックで、日々作り替えられている生きた組織です。
この記事では、骨の仕組みや再生メカニズムをはじめ、骨が持つ多彩な役割、骨密度を保つために欠かせない栄養素、そして骨粗鬆症の予防法まで、幅広くご紹介していきます。
いつまでも元気に動ける身体を保つために、「骨の健康」と向き合うきっかけにしてみてください。

骨の仕組みと再生力
私たちの身体には、およそ206個の骨があります。これらの骨は、私たちが日々の生活を送る上での支えとなり、身体を動かす際の土台として機能しています。これまでに骨折やヒビなど、骨に損傷を受けた経験がある人も多いのではないでしょうか。その際、損傷を受けた骨は特別な修復プロセスを経て再生され、現在では再び健康な身体の一部となっているのです。
骨は単なる硬い物質ではなく、実は非常にダイナミックで、絶えず新陳代謝を繰り返しています。この新陳代謝を可能にしているのが、主に3つの細胞です。骨を分解して古い部分を取り除く「破骨細胞」、新しい骨を作り出す「骨芽細胞」、そして骨代謝の調整や、重力・運動による衝撃を感知する役割を果たす「骨細胞」です。
この3つの細胞の中でも特に骨細胞は、骨にかかる日常的な負荷を感知するセンサーのような役割を持っています。私たちが歩いたり走ったり、重いものを持ったりする際に発生する衝撃や圧力を骨細胞が感知し、骨の代謝サイクルを適切に調整しています。
骨自体を構成している材料のことを骨基質と呼びます。主な構成成分は、カルシウムとコラーゲンです。カルシウムは骨に硬さを与え、強度を維持するための「コンクリート」のような働きをし、コラーゲンは骨に柔軟性としなやかさを与える「鉄筋」のような役割を担っています。
骨のリモデリング(再構築)は、破骨細胞と骨芽細胞が連携して行っています。まず、破骨細胞が古くなったり損傷した骨の部分を酸や酵素を使って溶かし出し、骨吸収を行います。この骨吸収の過程で、カルシウムやコラーゲンなどが血液中に放出されます。
次に、この骨吸収で空いた場所に骨芽細胞が集まります。骨芽細胞は新しい骨を形成するために、まず材料となるコラーゲンを生成・分泌し、糊のような柔らかいタンパク質基質を作り出します。その後、血液中にあるカルシウムが徐々にこのコラーゲンに沈着していき、硬化が進んで新しい骨が形成されます。この一連のプロセスが「骨形成」と呼ばれる現象です。
骨のリモデリングは継続的に行われており、一箇所で骨吸収に約4週間、その後の骨形成には約4か月という長い期間を必要とします。これを合わせると、一箇所あたりおよそ5か月の期間がかかることになります。また、全身にある全ての骨が完全に入れ替わるには、通常2〜5年もの長い時間が必要です。
成長期においては、骨形成の速度が骨吸収の速度を上回るため、骨はどんどん大きく、強くなっていきます。しかし、年齢を重ねて中高年期以降になると、このバランスが徐々に変化し、骨吸収が骨形成を上回るようになります。その結果として骨密度が低下し、骨量が減少してしまうのです。
しかし、骨密度や骨の健康は、加齢だけでなく、日常的な運動習慣や栄養バランスにも大きく影響されます。適度な運動を継続して行うことにより、骨細胞が刺激を受けて骨形成を促進し、カルシウムやビタミンDを含むバランスのとれた食生活を送ることで、骨の健康を維持することが可能となります。
骨の多彩な役割
身体を支える
骨は人体を支える家屋でいえば柱や梁のような役割をしています。建物の柱が折れたり壊れたりすると、家全体が傾いたり倒壊したりするように、骨が弱ったり損傷すると私たちの身体も姿勢やバランスを保つことが困難になります。特に高齢者においては、一回の骨折がその後の生活や健康寿命に大きく影響を及ぼすことが指摘されています。特に足や腰など重要な部位の骨折は寝たきりや運動能力の低下を引き起こし、活動量の低下がさらに筋力の衰えや認知症のリスクを高めることにもつながります。実際、要支援・要介護となる原因の上位には運動器障害(骨折、関節疾患、筋力低下など)が男女ともに入っています。
運動の支点となる
身体を動かす際に必要となるのが関節です。関節は骨と骨が接続する部位であり、膝の関節を例に取ると、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(膝のお皿)から構成されています。これらの骨は靭帯や腱などによって安定して繋がれており、筋肉が収縮・弛緩を繰り返すことによって関節が曲がったり伸びたりします。この仕組みにより、歩いたり走ったり、細かな動作を行ったりすることが可能になるのです。また、肩関節や足首などの多様な関節によって、人間の複雑で柔軟な動きが可能となっています。
内臓を守る
骨の重要な機能の一つに、脆弱で重要な内臓を衝撃や外部の危険から保護することがあります。硬い骨によって、頭蓋骨は脳を、肋骨は肺や心臓を、背骨は神経系を守っています。これらが損傷すると生命に関わるため、骨が防護壁として重要な役割を果たしていることは明白です。
血液をつくる
骨の中には骨髄という柔らかい組織が存在し、そこでは血液細胞をつくる造血幹細胞が働いています。造血幹細胞は赤血球、白血球、血小板などの重要な血液成分を生産します。アスリートが行う高地トレーニングは、この骨髄の造血機能を活用した例です。標高の高い場所では酸素濃度が低いため、体内の酸素運搬能力を高める必要があります。その結果、骨髄は酸素を運搬する赤血球を通常よりも多く生産し、これが平地に戻ったときに酸素摂取能力を向上させ、心肺機能や運動パフォーマンスの向上につながります。
カルシウムの貯蔵庫
骨はカルシウムを貯蔵する重要な場所でもあります。体内のカルシウムの約99%が骨や歯に蓄えられており、残りの約1%は血液中にあります。血液中のカルシウム濃度が低下すると、骨からカルシウムが放出され、血液中の濃度が一定に保たれます。カルシウムは神経伝達や筋肉の収縮など、生理機能を調節するために必須であり、このカルシウム調整機能は非常に重要です。
さらに進化的観点から見ると、生命は最初、骨のない単細胞生物として誕生しました。その後、脊椎動物が登場し、カルシウムを筋肉の収縮や神経活動に利用するために骨という構造を進化させたと考える研究者もいます。骨がカルシウムを貯蔵し、それを利用することで生物は効率的に筋肉を動かし、より高度な運動能力や生命活動を獲得したのです。
骨の健康を守るカルシウムとビタミンDの深い関係
日本の土壌や水は一般的にミネラル分が少ないため、特にカルシウムの含有量が少ない軟水が多くなっています。また、食文化の違いも影響しており、日本人は欧米人に比べて牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品の摂取量が比較的少ない傾向にあります。これらが日本人にカルシウム不足の傾向が見られる一因となっています。
カルシウムは骨や歯の形成に必要なだけでなく、生命維持に欠かせない重要な成分でもあります。血管の収縮や拡張、神経細胞間の情報伝達、筋肉の収縮、ホルモンの分泌調整など、さまざまな生理的プロセスに不可欠です。血液中のカルシウム濃度が低下すると、身体は骨からカルシウムを放出し、正常な生命活動を維持しようとします。これは一見すると骨が犠牲になっているように感じられますが、実際には骨の重要な機能の一つで、生命活動を最優先にする身体の巧妙な仕組みとも言えます。
しかし、日常的に摂取するカルシウムが極端に不足した状態が続くと、骨から過剰にカルシウムが放出され、結果として骨密度が低下し、骨粗鬆症などのリスクが高まります。骨の形成と吸収は常にバランスをとっていますが、吸収が形成を上回る状況になると、骨はもろくなり、簡単に骨折する危険性が増加します。そのため、日々適切な量のカルシウムを食事から摂取することが非常に重要です。
また、カルシウムは摂取した量のすべてが吸収されるわけではありません。カルシウムを効率よく骨に沈着させるには、骨の基盤となるタンパク質やカルシウムの吸収を促進するビタミンD、骨の弾力性や強度を維持するマグネシウムなど、関連する栄養素を同時に摂取することが効果的です。
特にビタミンDはカルシウムを腸での吸収促進および骨への沈着を助ける重要な栄養素です。ビタミンDは食事から摂取するだけでなく、皮膚でも合成することができます。皮膚の基底層に存在するコレステロールが、日光に含まれる紫外線を浴びることでビタミンDへと変化します。1日にわずか15分程度、日光を浴びるだけで1日に必要なビタミンD量が生成できると言われています。例えば、通勤や通学で家から駅まで歩く、洗濯物を屋外で干す、買い物や散歩をするといった日常的な活動だけでも、この必要量を確保できます。
もちろん、過度な紫外線は皮膚に悪影響を与える可能性があるため、適切な日焼け対策は必要ですが、一方で完全に紫外線を遮断してしまうとビタミンD不足を引き起こしかねません。最近では、紫外線の悪影響を最小限にしつつ、ビタミンDの合成を妨げない日焼け止めクリームも開発されていますので、こうした製品を活用することも一つの方法です。
ビタミンDを豊富に含む食品としては、魚やきのこが挙げられます。魚の中でも特にサケ、サバ、イワシ、ウナギなどに多く含まれています。また、きのこではマイタケや干しシイタケが代表的です。干しシイタケは日光に当てることでビタミンDの含有量が大幅に増加します。食卓に魚やきのこが登場する機会が少ないという家庭もありますが、ビタミンDは肉や卵などにも一定量含まれています。ただし、その含有量は魚に比べるとやや少ない傾向にあります。
女性に多い骨粗鬆症のリスクと予防法
骨粗鬆症は特に中高年の女性に多く見られる疾患であり、日本においては50代以降の女性の約4人に1人が骨粗鬆症であると推定されています。これは決して珍しい病気ではなく、誰にでも起こり得る身近な健康問題と言えるでしょう。
骨粗鬆症の原因の一つとして、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌低下が挙げられます。閉経を迎えると体内のエストロゲンの量が急激に減少しますが、実はこのホルモンには骨の分解を進める破骨細胞の働きを抑制するという重要な役割があります。そのため、閉経によってエストロゲンの分泌が減少すると、骨の分解が骨の合成を上回り、結果として骨量が著しく減少してしまいます。
専門家によれば、閉経後の3年間でエストロゲンが急激に減少し、その後10年間でおよそ15%もの骨量が失われると報告されています。これは骨の強度を著しく低下させ、骨折のリスクを高める重大な要因となります。
骨量のピークは男女ともに20歳前後とされており、それ以降は徐々に減少していきます。40代前半までは比較的骨量が安定していますが、45歳前後を境に減少傾向が顕著になり、特に女性の場合は更年期を迎える頃から骨密度が急激に低下していくことが知られています。
さらに、加齢が進むにつれて骨の合成能力そのものも衰えるため、骨密度の低下は年齢とともに進行しやすくなります。このため、50代女性の10人に1人、60代では5人に1人、70代では3人に1人、そして80歳以上になると2人に1人が骨粗鬆症を抱えているというデータがあります。まさに高齢女性の半数が骨の健康に問題を抱えているという深刻な状況です。
骨粗鬆症の怖い点は、骨がもろくなることで日常生活の中で些細な衝撃でも骨折を引き起こしてしまうことです。たとえば、転倒して手をついた際に手首を骨折する、少し足をぶつけただけで足の指を骨折するといったことが起こりやすくなります。若い頃であれば捻挫や打撲程度で済んでいたような衝撃でも、骨粗鬆症によって弱くなった骨には致命的なダメージとなるのです。
特に高齢になると、大腿骨頸部(大腿骨の付け根部分)の骨折や、背骨(脊椎)の圧迫骨折が多く見られるようになります。大腿骨頸部は細くなっており、体重の負荷が集中しやすいために骨折が起こりやすい場所です。これにより歩行困難となり、要介護状態に移行する例も少なくありません。また、背骨の圧迫骨折は痛みを伴わずに起こることも多く、「いつの間にか骨折」と呼ばれることもあります。本人も気づかないうちに骨がつぶれてしまい、身長が縮んだり、背中が丸くなったりする原因となります。
このような深刻な骨折を防ぐために、厚生労働省などの行政機関からも転倒防止への対策が呼びかけられています。たとえば、日頃から骨密度を維持・改善するための栄養摂取(カルシウムやビタミンD)、定期的な運動(筋力トレーニングやウォーキング)、そして家庭内や公共の場所での手すり設置、滑りにくい床材の使用、段差の解消といった環境整備も重要です。これらの予防策を日常生活に取り入れることで、骨粗鬆症による骨折リスクを軽減し、健康寿命を延ばすことが可能になります。
日常に取り入れたい骨を強くする習慣
筋肉は筋力トレーニングによって発達させることができるという事実は、広く一般に知られています。一方で、骨に関しては筋肉のように直接ダンベルを使って鍛えることはできませんが、適切な刺激を与えることで骨密度の低下を予防し、骨の健康を維持することが可能です。骨も筋肉と同じように、生きている組織であり、日々分解と再構築(リモデリング)を繰り返しています。この骨の新陳代謝を促すためには、物理的な刺激が非常に重要な役割を果たします。
こう聞くと、骨を鍛えるには特別な運動が必要だと思うかもしれませんが、実際にはそうではありません。日常生活に簡単に取り入れられるような動作でも、十分に骨に刺激を与えることができるのです。
その代表的なものがウォーキングです。特別なスポーツや運動を行う必要はなく、散歩のようにゆったりとした歩行でも効果があります。歩くという動作は、地面に足をつけるたびに衝撃が身体に伝わり、その力が長軸方向(骨の縦方向)に加わることで骨に刺激を与えることになります。特に太ももやすねの骨、股関節や腰椎などに効果的です。無理に力を入れて踏み込む必要はなく、自然な歩行で十分な刺激となります。
自宅で簡単にできる運動としては、踏み台昇降運動もおすすめです。台に上がったり降りたりする動作は、垂直方向に力が加わり、骨への刺激がより強くなります。この動きは骨に対する影響だけでなく、下半身の筋力強化やバランス能力の向上にも効果があります。特に膝や股関節、お尻の筋肉を鍛えることで、転倒のリスクを軽減し、それに伴う骨折の予防にもつながります。
また、ストレッチは、直接骨に刺激を与えるわけではありませんが、筋肉を伸ばしたり関節を動かしたりすることで、間接的に骨に影響を与えます。関節の可動域を保つことは、日常動作をスムーズに行う上で非常に大切です。身体が固まっていると運動そのものが億劫になり、結果として骨に対する刺激も少なくなってしまいます。
さらに、ラジオ体操のように、軽いジャンプや腕を大きく振る動作が含まれる体操も、骨への刺激という点で効果的です。骨は一定の衝撃や負荷がかかることで反応し、新しい骨を作る指令が骨芽細胞に伝えられます。これは、破骨細胞による骨の分解と、骨芽細胞による骨の形成というサイクルの中で非常に重要なプロセスです。
ただし、すべての運動が骨に対して等しく刺激を与えるわけではありません。たとえば、水泳や水中ウォーキングといった水中での運動は、浮力の作用によって体重が軽くなるため、骨への負荷が小さくなります。また、自転車をこぐ運動では、座った状態で足が宙に浮いている時間が多いため、地面からの反発力が骨に伝わりにくく、骨密度の維持という観点では刺激が不足しがちです。しかしこれらの運動は、心肺機能の向上、筋力の維持、全身の血行促進には非常に有効であり、身体全体の健康を考えると欠かせない運動でもあります。
このように、骨への刺激を意識した運動と、全身の健康維持を目的とした運動をバランスよく取り入れることが理想的です。特に高齢になると筋力が低下しやすく、転倒のリスクが高まるため、筋力強化やバランス能力の維持も骨の健康を守るために重要な要素となります。
興味深い例として、宇宙飛行士の骨量減少が挙げられます。宇宙では無重力状態で生活するため、地球のように骨に重力がかからず、骨への刺激が極端に少なくなります。その結果、地上の10倍もの速度で骨量が減少し、わずか半年の宇宙滞在で約10%もの骨量が失われるという報告もあります。この事実は、骨の健康を保つうえで、重力と物理的な刺激がいかに重要であるかを示しています。
地球上で生活する私たちも、長時間のデスクワークなどで身体を動かさない時間が続くと、骨への刺激が不足し、骨量の減少につながる恐れがあります。デスクワーク自体が骨に悪影響を与えるというよりも、身体を動かす機会が少ないことが問題なのです。こまめに立ち上がってストレッチをする、昼休みに少し歩く、できる限り階段を使うといった日常の工夫でも、骨の健康を守るためには十分意味があるのです。

まとめ
骨は私たちの健康と生活の質を支える、まさに「身体の土台」です。
年齢とともに骨密度は自然と低下しますが、適切な栄養、適度な運動、そして日常のちょっとした工夫によって、骨の健康を維持し、骨粗鬆症や骨折のリスクを減らすことができます。
今日からできる小さな行動が、将来の自分を守る大きな力になります。骨の再生力を信じて、少しずつでも始めてみてください。
TRANSCENDでは、一人ひとりの状況に合わせて適したメニューを組んでいます。
通う頻度についても月2回、月4回、月8回の3つのプランから選択できるので、お気軽にご相談ください。