身体を守る免疫力とは?花粉症と免疫の関係性についても解説

「免疫力」という言葉を耳にする機会が増えた今、その仕組みや働きを正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。
花粉症、風邪、感染症、自己免疫疾患、これらに共通して関係しているのが、私たちの身体に本来備わっている免疫機能です。
免疫は単に“病気を防ぐ力”ではなく、「何を敵とし、何を守るか」を判断しながら、絶えず体内の安全を維持してくれている複雑で繊細なシステムです。
この記事では、人間の免疫力について、詳しく、わかりやすく解説していきます。
是非最後までご覧ください。

免疫力とは?
春が近づくとともに、花粉症の症状に悩まされる方が増えてきます。
鼻水やくしゃみ、目のかゆみといった不快な症状が続くと、毎日を快適に過ごすことが難しくなります。
実際、2024年1月に行われた国内の調査によると、日本人のおよそ2人に1人が花粉症を抱えていると報告されており、少ないデータでも4人に1人が何らかの症状を持っているとされています。
これほど多くの人が悩まされている花粉症の原因には、私たちの身体に本来備わっている「免疫力」が深く関わっています。
免疫力とは、ウイルス、細菌、カビ、花粉、ハウスダストなどの異物が体内に侵入した際、それらを異物と判断して排除しようとする身体の防御機能のことです。
この免疫の働きによって、私たちは病気を未然に防いだり、感染しても軽症で済んだりすることが可能になっています。
しかし、その一方で、免疫反応が過剰になってしまうと、実際には無害な花粉に対しても強く反応してしまい、花粉症などのアレルギー症状が引き起こされるのです。
こうした免疫の過敏な反応がつらい症状の原因になる一方で、免疫力が低下してしまうと、今度はウイルスや細菌に対する抵抗力が弱まり、風邪をひきやすくなったり、治りが遅くなったりします。
さらに、がん、生活習慣病、胃潰瘍、アルツハイマー病などの深刻な疾患のリスクも高まってしまうため、免疫のバランスは非常に繊細で重要なものだと言えます。
2020年から続いた新型コロナウイルスのパンデミックでは、「免疫力」、「抗体」、「ワクチン」といった言葉が日常的に使われるようになり、感染症に対する備えとしての免疫の役割が改めて注目されました。
未知のウイルスに対して人間の身体は最初は無防備ですが、一度感染すると免疫はそのウイルスの情報を記憶し、次に同じ病原体に出会ったときには、迅速に対応して重症化を防ぐことができます。
こうした免疫の記憶機能は、現代のワクチンにも応用されており、人工的に免疫を獲得することで感染症を予防する技術として世界中で活用されています。
実はこの免疫の仕組みは、近代になって初めて明らかになったわけではなく、歴史の中でもその効果が体感的に理解されていました。
例えば、14世紀にヨーロッパで大流行したペストでは、ヨーロッパ全人口の3分の1から3分の2が亡くなったとされていますが、その中で患者の看護にあたった修道士や騎士の一部は、一度感染して回復した後は、再び患者と接触しても重症化せずに済んだという記録が残っています。
当時はそれを「神のご加護」として受け止めていたものの、現代医学の視点から見ると、それは免疫による防御反応だったと考えられています。
この事実が科学的に理解され、ワクチンという形で応用されるようになるまでには約600年もの時間がかかりましたが、今では免疫機能を活用した予防医療が当たり前となり、私たちの健康を守る大きな柱となっています。
では、この重要な免疫力を維持・向上させるためには、どのような生活を送ればよいのでしょうか?
実は、特別なことをする必要はなく、日々の基本的な生活習慣の積み重ねが何より大切なのです。
具体的には、栄養バランスの取れた食事(特にたんぱく質、ビタミン、ミネラルの摂取)、十分な睡眠、適度な運動、ストレスのコントロール、腸内環境を整える(発酵食品や食物繊維の摂取)、などが免疫力を支える柱となります。
中でも腸は免疫細胞の約7割が集中しているとされ、「腸を整えることは免疫を整えること」と言われるほど、免疫と密接に関わっています。
現代人は仕事や人間関係、食生活の乱れなどから知らず知らずのうちに免疫力を低下させてしまっていることが多いため、日々の生活の中で、自分の身体の声に耳を傾け、無理をせず、免疫を整える意識を持つことが大切です。
免疫力は高すぎてもアレルギーのように不調を引き起こし、低すぎてもさまざまな病気のリスクが高まるため、そのバランスを保つことこそが、心身ともに健康な生活を送るための鍵となります。
自然免疫と獲得免疫の役割
免疫は、大きく分けて「自然免疫」と「獲得免疫」の2つに分類され、それぞれが異なる仕組みと働きを持ちながら、協力して私たちの健康を支えています。
まず「自然免疫」は、生まれつき身体に備わっている免疫機能で、異物が体内に入った瞬間にすぐに反応し、排除しようとする“第一防衛ライン”です。たとえば、皮膚は病原体の侵入を物理的に防ぎ、唾液、涙、鼻水などの粘液は殺菌作用を持ち、口や鼻などから侵入してくる異物を排除しようとします。これらのバリアを突破して異物が体内に入ると、次に登場するのが白血球を中心とした自然免疫の細胞たちです。自然免疫の特徴は、相手がどんな異物であっても「異物」と認識すれば即座に攻撃することです。準備や判断を必要とせず、迅速な対応が可能である点が大きな利点です。
この自然免疫の中核を担っているのが、白血球のうちの「単球」「顆粒球」「NK細胞(ナチュラルキラー細胞)」などの細胞です。単球には「マクロファージ」や「樹状細胞」が含まれ、マクロファージは異物を見つけるとそれを飲み込み、分解する“貪食細胞”として働きます。一方、樹状細胞は異物を取り込んでその情報を記録し、獲得免疫の細胞に伝える「情報伝達役」を担います。また、顆粒球の一種である「好中球」も自然免疫の主力で、細菌を食べて処理する能力がありますが、食べた後には自ら死んでしまいます。傷口に見られる膿は、この好中球などの免疫細胞が病原体と闘ったあとの“戦いの痕跡”なのです。
一方、「獲得免疫」は、生まれてから生活の中で異物や病原体と出会い、その情報を記憶し、次に同じ病原体が体内に入ってきたときに、より強力かつ迅速に対応する“学習型の免疫”です。この免疫の中心にあるのが「B細胞」と「T細胞」と呼ばれる白血球の一種で、どちらもリンパ球に分類されます。B細胞は異物に対して特異的に作用する「抗体」を作り、病原体を無力化します。T細胞は感染細胞の破壊や免疫全体の指令、病原体の記憶など、多くの役割を担い、獲得免疫全体をコントロールする司令塔のような存在です。B細胞とT細胞は、一度出会った病原体の情報を記憶することで、再感染時には素早く反応するという点が大きな特徴です。
また、リンパ球の一種であるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)は自然免疫に属し、がん細胞やウイルスに感染した細胞を見つけて即座に攻撃する能力を持っています。T細胞やB細胞のように特定の相手を覚えることはできませんが、初期段階での素早い反応を担う重要な細胞です。
このように、免疫システムは自然免疫が「相手を問わずすぐに攻撃するスピード型」の防衛であるのに対し、獲得免疫は「相手の情報を記憶し、より精密に対応する学習型」の防衛であるという、異なる特徴を持っています。そして、両者が連携することで、病原体の侵入に対して即時対応と長期的な防御の両方を実現しているのです。
免疫が持つ判断力
免疫には、単なる攻撃・防御の仕組みだけでなく、“何を攻撃すべきか” “何を許容すべきか”という判断を行う高度な能力が備わっています。まるで知性のようなその判断力は、身体を守る上で非常に重要な役割を果たしています。
免疫の基本的な働きは、「自己」と「非自己」を見分け、非自己である病原体や異物に対して攻撃し、自己に対しては反応を起こさない、という仕組みです。
「非自己」とは、自分の身体ではない異質な存在を意味し、ウイルス、細菌、花粉、ほこり、動物由来のたんぱく質、移植された臓器などが該当します。免疫はこうした非自己を感知すると、「外敵」として認識し、防御反応を起こします。これが、私たちが風邪やインフルエンザなどの感染症にかかったときに免疫が発動し、病原体を排除する反応です。
しかし、免疫の働きは単純に“異物を見つけたら攻撃する”というものではありません。
時には、非自己であるにも関わらず、免疫があえて攻撃しない「免疫寛容(めんえきかんよう)」という現象が起こります。これは、異物を敵として排除するのではなく、「あえて受け入れる」という選択をする免疫の柔軟性を意味しています。
その代表的な例が、「妊娠免疫」と呼ばれる現象です。妊娠中、母体にとって胎児は“完全な自己”ではなく、「父親の遺伝子」を半分受け継いでいる存在、つまり母親にとっての“非自己”です。
本来であれば、免疫システムはこのような非自己に反応し、排除しようとするはずです。しかし現実には、多くの場合、胎児は母親の免疫から攻撃されることなく、母体の中で守られ、成長していきます。これは、母体の免疫システムが胎児に対しての免疫反応をあえて抑制するように働くためです。
具体的には、子宮内で免疫細胞が変化し、攻撃性を弱め、胎児との共存を可能にする“特別な環境”がつくられていると考えられています。こうした免疫の判断力がなければ、妊娠は成立せず、命を育むこともできません。
一方で、この免疫の判断力に“エラー”が起きると、身体に深刻な問題を引き起こすことがあります。それが、「自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)」です。
本来であれば“自己”であるはずの自分自身の細胞や組織を、免疫が誤って“非自己”と認識し、攻撃してしまう状態を指します。つまり、自分自身を敵とみなしてしまうのです。
代表的な自己免疫疾患としては、関節の内部が炎症を起こす「関節リウマチ」、甲状腺が攻撃される「橋本病」や「バセドウ病」、皮膚や筋肉に症状が現れる「全身性エリテマトーデス(SLE)」などがあります。
自己免疫疾患は、皮膚、内臓、関節、血管、神経など、ほぼ全身のあらゆる組織が対象になる可能性があり、その原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝、ウイルス感染、ストレス、環境因子などが複合的に関係していると考えられています。
このように、免疫は単なる「攻撃システム」ではなく、「何を守るべきか」「何を攻撃すべきか」「何を許容すべきか」といった高度な判断力とバランス感覚をもった生命維持システムであると言えます。
健康な状態では、免疫はこの判断を正確に行い、異物から身体を守りつつ、自分自身や胎児といった特別な存在には適切な“寛容さ”を見せます。しかし、そのバランスが崩れれば、外敵を排除できず感染症にかかったり、逆に自分自身を攻撃して病気を引き起こしたりと、さまざまなトラブルにつながるのです。
免疫力が過剰に働くと
免疫が過剰に働いた場合、身体は本来無害であるはずのものにも過敏に反応し、それがアレルギー症状として現れることがあります。前述したように花粉症は、花粉に対して免疫が過剰に反応し、「IgE抗体」と呼ばれる特定の抗体が大量に作られることで、ヒスタミンなどの化学物質が放出され、くしゃみ、鼻水、目のかゆみといった不快な症状が引き起こされます。このような症状は、身体を守ろうとする免疫の働きが必要以上に反応してしまう「免疫の暴走」ともいえる状態です。
また、ハチに刺されたときや特定の食べ物、薬に対して起こる「アナフィラキシーショック」も、免疫の過剰反応によって引き起こされる重篤なアレルギー反応の一種です。これは、体内に入ってきた物質を敵と認識した免疫が全身で一斉に過敏に反応し、急激な血圧低下、呼吸困難、意識障害などを引き起こす危険な状態であり、命に関わることもあります。
さらに、免疫細胞は病原体の情報を伝え合うときに「サイトカイン」と呼ばれる物質を分泌しますが、このサイトカインが過剰に放出されると、身体に強い炎症反応が生じることがあります。この現象は「サイトカインストーム」と呼ばれ、免疫反応が制御不能となり、血管を傷つけたり、内臓の機能を低下させたりする深刻な状態を引き起こします。さらに、サイトカインの過剰な放出は血液の中に血栓を生じやすくするため、血管が詰まりやすくなり、結果として心筋梗塞や脳梗塞といった重篤な疾患を引き起こすこともあります。
このように、免疫の過剰反応は、身体を守るどころか命を脅かすリスクさえあるのです。その背景には、現代社会における衛生環境の大幅な改善が関係しているのではないかともいわれています。かつての人類は、土や動物、自然環境の中で多くの細菌やウイルスと接触しながら生活してきました。その中で免疫システムは「本当に攻撃すべき敵」を学び、適切な反応をするように鍛えられてきたのです。しかし、現代の都市型生活では清潔志向が強まり、外敵と接する機会が減ってしまいました。その結果、免疫が過剰に働く傾向が強まり、花粉や食べ物など本来は無害なものに対してまで敵と認識してしまい、アレルギーや自己免疫疾患が増えているという考え方が、「衛生仮説」として提唱されています。
抗原とは?異物を見極める免疫システムのカギ
私たちの身体には、病原体や異物に対して反応し、排除するための免疫機能が備わっていますが、その免疫反応を引き起こす引き金となるのが「抗原」と呼ばれる物質です。抗原とは、免疫細胞が“これは自分ではない”と判断し、反応の対象とする分子や構造のことであり、抗体の産生を促す存在でもあります。抗原が体内に侵入することで、免疫細胞のB細胞やT細胞はそれを認識し、防御反応を開始します。つまり、抗原は私たちの身体にとって、敵の目印であり、免疫の働きを正確に導く重要なサインなのです。
自然界には非常に多くの抗原が存在しており、その種類も多岐にわたります。最も一般的なものは、ウイルスや細菌、カビ、花粉などの異種タンパク質で、これらは「異種抗原」と呼ばれます。これらの抗原は私たちの身体とはまったく異なる構造を持つため、免疫系はそれらを明確に異物と認識し、攻撃の対象とします。一方で、同じ人間同士の間にも抗原の違いがあります。たとえば、輸血や臓器移植の際に問題となる血液型やHLA抗原などがそれにあたり、「同種抗原」と呼ばれます。これらは同じ種の中でも個体差によって生じる抗原の違いであり、適合しない場合は拒絶反応を引き起こすことがあります。
さらに興味深いのは、外部からの抗原による免疫反応が、自己免疫の引き金になることがあるという点です。その代表例として挙げられるのが、溶連菌(化膿レンサ球菌)感染と心疾患の関連です。溶連菌は咽頭炎や扁桃炎を引き起こす病原体として知られていますが、その細胞表面に存在するタンパク質の一部が、人間の心筋細胞が持つタンパク質と非常に似た構造(抗原性)を持っていることがわかっています。このような場合、免疫はまず溶連菌に対して抗体を作って攻撃しますが、その抗体が心筋細胞にも反応してしまうことがあり、結果として心臓の組織までが攻撃され、自己免疫的な炎症が起こる可能性があるのです。この現象は「分子相同性」と呼ばれ、感染をきっかけに自己免疫疾患が誘発されることがあることを示しています。
抗原は、免疫が異物を識別し、それに対応するために必要不可欠な存在ですが、その一方で、誤認や過剰な反応によって身体に害を及ぼすリスクも孕んでいます。抗原がどのようなものか、それに対して免疫がどのように反応するかによって、健康が保たれるかどうかが大きく左右されるのです。

まとめ
免疫は、私たちが健康に生きるために欠かせない「身体の守護者」でありながら、時にその働きが過剰になり、自分自身を傷つけてしまうこともある非常に繊細なシステムです。
免疫力は「高ければいい」というものではなく、“過不足のないバランスの取れた状態”こそが理想的なのです。
免疫を過剰に刺激しないためには、日々の生活の中で自分の身体にやさしく向き合い、栄養、睡眠、運動、ストレス管理を整えることが基本です。
正しい知識とバランスの取れた習慣こそが、免疫力を“整える”第一歩なのです。
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